婦人科の急性腹症

要点

  ①妊娠可能な年齢の女性の腹痛では妊娠の可能性を常に念頭におく!
  ②CTは基本的に妊娠反応陰性を確認後に撮影する!
  ③妊婦の鎮痛薬はアセトアミノフェンが第一選択薬!

Points
・女性を診察する上で、常に「妊娠」の可能性を念頭に置くことは重要である。
・月経周期の詳しい問診が必要!

総論

婦人科系の急性腹症は救急外来でも日常的に遭遇し、消化器や泌尿器など他科疾患との鑑別を要する。

主訴

下腹部痛、不正性器出血、嘔吐、失神など

General & Vital signs

・第一印象としては苦悶様表情やパニック状態などであることが多い。
・バイタルの異常がないものからショックバイタルまで様々である。
・PIDの場合は発熱もあるが、軽度ならば発熱がないこともあるので注意する。

鑑別疾患

緊急度の高い疾患
  全女性:異所性妊娠、卵巣出血、卵巣茎捻転など
  妊婦 :常位胎盤早期剥離、子宮破裂、前置胎盤など
中等度の緊急疾患
  骨盤内炎症性疾患(PID)、Fitz-Hugh-Curtis症候群など
緊急度の低い疾患
  月経痛、月経困難症、排卵痛、機能的性器出血など
※婦人科疾患以外の一般的な腹部疾患の鑑別も検討すること!(例:虫垂炎)

痛みの時期と疾患
月経時の痛み:月経痛、月経困難症
月経半周前 :排卵痛、卵巣出血
性交後の痛み:卵巣出血

卵巣茎捻転
嘔吐+腹痛を同時に生じ、卵巣腫瘍を伴うことが多い。

医療面接・診察

医療面接
  最終月経:最終月経開始日より4週間以上経過している場合は妊娠を考慮する。
  月経の性状:月経周期(順、不順)、持続期間、月経過多の有無、月経困難の有無、出血量
  内服薬:月経痛に対する鎮痛薬内服の有無など
  既往歴:STDの既往、検診歴
  その他:結婚、妊娠、分娩歴、性交渉の有無、避妊の有無とその方法
診察
  眼球:眼瞼結膜(貧血の有無を確認)
  腹部:腹痛の部位、腹膜刺激症状の有無など
  内診:子宮頸部の可動時痛の有無 ※男性医師は女性看護師と一緒に診察すること!

最終月経の前の月経
最終月経だけでなく、最終月経の前の月経がいつかも確認するとよい。
本人の申告する「最終月経」が実は切迫流産や異所性妊娠による性器出血だと判断する手がかりになる。

検査

血液検査:CBC、生化、凝固 ※Fe、TIBC、フェリチンも確認できると良い
尿検査:尿中hCG定性、尿一般、尿沈渣
腹部エコー:子宮、卵巣の腫大の有無、腹水の有無・性状(血性かどうか)など
腹部単純・造影CT:妊娠を否定した後に検査を考慮(炎症や腹腔内腫瘍の精査)

治療

ERで行うことは、緊急疾患の除外、バイタル安定化、疼痛コントロール、対症療法。
帰宅させるとしても翌日には産婦人科受診を勧める。
※鎮痛薬はNSAIDs禁忌!アセトアミノフェンが望ましい。(麻薬・ソセゴンもOK)

Discharge or Admission Criteria

婦人科系の急性腹症と判断した場合、バイタル安定化に努めながら産婦人科にコンサルト。
帰宅可能と判断しても、翌日には産婦人科受診を勧める。

診療上のポイント・アドバイス

・反跳痛は強いが、筋性防御が軽い時は腹部疾患より産婦人科疾患から考える。
・月経に関する質問をする際は同伴の方がいないときに行うのがベター。
Fitz-Hugh-Curtis症候群(FHCS)は右季肋部痛を来たすため胆嚢炎などとの鑑別が重要だが、
 尿道・子宮及び付属器炎による下腹部痛が肝周囲炎として右季肋部痛へと移動するので病歴が大切。
 ※腹部造影CTで肝被膜に沿った造影効果を認める。ただし一般的な撮影方法である静脈相より動脈相ではっきり認める。
 (造影CTのオーダーを出す際に、動脈相での撮影追加の依頼を出せると非常に親切。)
※腹部造影CTで肝被膜に沿った造影効果を認める。ただし一般的な撮影方法である静脈相より動脈相ではっきり認める。

妊婦であっても産婦人科疾患以外の急性腹症の鑑別も念頭に置くこと。

PID診断基準
〔必須診断基準〕
  1.下腹痛,下腹部圧痛
  2.子宮/付属器の圧痛
〔付加診断基準〕
  1.体温≧38.0°C
  2.白血球増加
  3.CRP の上昇
〔特異的診断基準〕
  1.経腟超音波や MRI による膿瘍像確認
  2.ダグラス窩穿刺による膿汁の吸引
  3.腹腔鏡による炎症の確認

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