感染性腸炎

要点

  ①便の性状・回数・1回量を問診で確認する
  ②水様下痢のない腹痛・嘔吐を安易に腸炎と診断しない
  ③小腸型の一般的な腸炎は対症療法が基本だが、止痢薬は原則処方しない

Points
・下痢は、糞便内の水分量が多くなり糞便が本来の固形状の形を失って、水様~粥状となった状態。
・1日4回以上の頻便または水様便200g/日以上を下痢と判断する。
・頻度的には食事性、心因性が多い。問題になるのは食中毒、細菌感染、虚血性大腸炎、抗菌薬関連性腸炎。

総論

持続期間が2週間以内の場合は急性下痢、4週間以上続く場合は慢性下痢と区別される。
急性下痢の多くは数日で自然治癒し検査も不要だが、
消化管出血、アナフィラキシー、甲状腺クリーゼなど死につながるケースもあることを認識する。

主訴

水様便、血便、腹痛、嘔気嘔吐  ※血便は細菌性腸炎を疑う所見!

General & Vital signs

多くの感染性腸炎は軽症だが、発熱や脱水が強いと頻脈、血圧低下を認める場合がある。

鑑別疾患

頻度が高い疾患
 過敏性腸症候群、薬剤性(抗菌薬、NSAIDs、アルコール、PPI)
危険な疾患
 炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、アナフィラキシー、トキシックショック症候群、副腎不全

医療面接・診察

①大腸(炎症性)型・小腸(非炎症性)型の鑑別
 大腸型:少量、頻回(8~10回/日)の血便、テネスムス(しぶり腹)、強い腹痛
     原因は細菌(カンピロバクター、赤痢菌、サルモネラ、エルシニア、CD、腸管出血性大腸炎)、
     CMV、赤痢アメーバ、虚血性腸炎など。
 小腸型:多量の水様便(3~4回/日)、血便は通常みられない
     原因はノロウイルス、ロタウイルス、腸管毒素原性大腸菌(旅行者下痢症)、コレラ菌、
     黄色ブドウ球菌、セレウス、ウェルシュなど。
②患者背景の確認
 免疫力:免疫抑制剤・ステロイドの使用、AIDS患者、高齢者
 渡航歴:開発途上国からの帰国者
 内服薬:抗菌薬、NSAIDs、PPI、サプリメントの服用有無
 既往歴:腹部手術の既往、放射線治療歴
 その他:食事内容、牛乳や乳製品が誘因になるか、アルコール摂取量、炎症性腸疾患の家族歴、sick contact
③食事内容の確認
 内容:生魚貝類や生肉、乳製品、卵などの摂取歴、
 時間:生物などの摂取から発症までの時間
 周囲:集団発生の有無(周囲に同症状の人がいるか)

検査

※大腸型を疑う場合(血便など)や、症状が強く点滴・外来フォローが必要な患者にのみ以下の検査を考慮する。
便検査:便培養(原因微生物の特定に繋がる)
    グラム染色(カンピロバクターの迅速特定に有効)
    特異抗原検出(ノロウイルス、ロタウイルス、CDトキシン、ベロトキシン)
血液検査:CBC、生化、凝固 ※CRP上昇・低K・Hb低下の有無などを確認!

腹部CT
重症例では腹部CTの撮影を検討する。
回盲部炎はカンピロバクター、サルモネラ、エルシニア感染症を考える。
亜急性・再発の場合はベーチェット、クローン病、悪性リンパ腫、結核なども考慮する。

治療

①水分摂取
 軽症:スポーツドリンク・経口補水液(oral rehydration therapy)などの飲水励行
 重症→細胞外液(生理食塩水・ハルトマンなど)の点滴
②対症療法薬
 下痢:ミヤBM1g 3包分3 5日分
 嘔気:ドンペリドン®10mg 頓用(1回1錠) ※妊婦・イレウスに禁忌!
    妊婦にはイトプリド・ガナトンの処方、またはメトクロプラミド静注を検討する
 ※止痢薬は原則処方しない!(ドレナージ不足になるリスクを患者に説明する)
③抗菌薬
 重症の細菌性腸炎の場合にのみ抗菌薬投与を考慮する。
 軽症〜中等症なら細菌性腸炎でも抗生剤は必ずしも必要なく、使用しないことが多い。
  外来:レボフロキサシン500mg 1回1錠 7日間 ※サルモネラ・カンピロバクターをカバー
  入院:セフトリアキソン1g 1日1回 7日間

Discharge or Admission Criteria

帰宅後も飲水困難が予想される場合や高リスク患者は入院適応あり。
血便など大腸型を疑わせる場合、検査を行ったうえで再診予約をとる。
帰宅させる場合、治癒までの一般的な経過を説明した上で帰宅させる。

診療上のポイント・アドバイス

多くの症例では対症療法で改善する。
抗菌薬の投与が必要か(すなわち、細菌性か否か)を問診、診察で判断する。
大腸型を疑い再診予約をと場合は便培養を提出することが望ましい。
(再受診時に細菌性であれば原因微生物にターゲットを絞った抗生剤を使用できる!)

腸炎の一般的経過
嘔気嘔吐は半日以内に症状が落ち着くことが多いが、下痢は4,5日持続する。
嘔気嘔吐を予防するために、よく噛んでゆっくり食べることや、少しずつ飲水するように指導する。

急性下痢症 起因菌の特徴
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